「中国」という車の計器盤役割を果している統計局のデータが狂っていながら、経済高速道路を猛スピードで走行している現状を前号で紹介しました。
国の運営に相当する会社経営にも「会計軽視」という同様な問題が存在し、メーターが狂っている車には乗りたくないと言いながらも、不正確な会計データに基づいて会社を運営している経営者が多いという不思議な現状にも疑問を感じています。
中国統計データの偏差は主に2つの理由が考えられます。
1.「技術的」理由
金融危機の悪影響を真ともに受けていた2008年の雇用情勢は、皆さんがまだはっきり覚えていると思います。多くの企業で、ボーナスカット、従業員解雇、生産工場では操業時間短縮による事実上の減給を行うなどの措置がなされました。そのような情勢でも、統計局は平均給与が上昇したという結果発表をしました。
沸きあがる民衆の疑問に対して、統計局が『給与統計は国営企業を中心として行われ、多くの外資系・民営企業の従業員たちの実感と差違があることは事実である』と説明しました。膨大な外資系・民営企業の従業員たちが、所得統計データから外されたことは、ほとんどが国営企業であった一昔前の統計方法(サンプルの取り方)と何ら変えていないということが推察できます。しかし、これはあくまでも統計方法のミスであり、その「統計技術の進歩」を求めれば済むことです(もちろん、そう簡単にはいきませんが・・・)。
2.「粉飾したい」という理由
中国各地方が発表したGDPの(成長)合計額は同期中国全体GDPの(成長)額より高いことはよく知られている現象です(会社で言えば、全ての部門の売上合計が、同期会社全体売上より高いということですね)。地方行政長官を始め、各級官僚に対する「政績」(政治的成績ということ)評価の最重要指標は「GDP」である以上、その「GDP」額を高く評価させたい気持ちはよく理解できます。しかし、それはあまりにも「事実」と乖離させると、「粉飾」になります。
「粉飾」は決して「良いデータ」を捏造することだけではなく、「悪いデータ」を隠すこともあり得ます。年々需要増となっている中国の石炭市場で儲けるため、石炭会社が安全を無視して増産する問題は深刻です。中央政府が安全問題を重視している現状では、石炭鉱山の死亡者数をいかに隠蔽するのは、地方政府責任者にとって大きな政績に繋がりますので、過少申告する傾向がよく見られます。その結果として、毎年「鉱難」(石炭鉱などで発生した事故)による死者数の統計データは過小となっています。
日系企業の会社経営における会計データの偏差も上記統計データと同様な理由が考えられます。
1.「技術的」理由
会計準則、税法も含め、企業経営を取巻く環境の変化によって、企業会計に対する要求も変わってきています。しかし、その変化に対応できる人材の育成・補填などをできなければ、会計データは不正確となります。
投資者である親会社から、会計準則を基準とする「財務会計データ」を欲しいと言われても、中国子会社の会計担当者は税務会計しか分からないことから、税法を基準とする「税務会計データ」しか報告しない日系企業は少なくありません。親会社としては、要求と違うデータが送られ、正しい会計が行なわれていないと子会社を叱るでしょう。
一方、このようなお叱りを受けた現地経営者は「財務も税務も同じ会計ではないか」、「中国はこれしかない」などの理由で強弁しています。現地経営者の不勉強は別(*1)として、その弁解の不合理なところを一つの例で説明します。
その弁解をする経営者でも、日本レストランでソバ(財務会計データ)を注文したのに、うどん(税務会計データ)が出されたら、ウエイトレスに「受注間違い」とクレームをつけるでしょうね。そして、そのウエイトレスから「同じ細長いものだから、良いではないか」と弁解されたら、「お前、バカか。言い訳するな!」と怒るでしょう。しかし、このような方は子会社経営者として平気で注文者である親会社に同様な理不尽な回答をするのは何故でしょうか。
技術的に、本社の要求を満足させることができないことは、比較的解決しやすいのですが、屁理屈で弁解すれば逆に問題解決を複雑化させる結果に繋がります。
2.「粉飾したい」という理由
「数字を良く見せる」ことは、短期的に、昇給、ボーナス増につながり、長期的に、本社へ戻る時の昇進材料になりえますので、会計データを「加工」したい気持ちは重々わかります。しかし、良く見られますが、「架空売上の計上、売上債権リスクを評価しない(*2)」など経営状態をよく見せる行為を繰り返すと、逆効果になるだけではなく、上場企業の場合法律に触れる可能性まで十分あります。
今回は、統計データ、会計データの偏差発生原因について簡単に分析しましたが、次回は不正確な統計・会計データによる被害を、皆さんと一緒に考えて見たいと思います。
*1 売掛金の貸倒引当を計上しないこと
*2 「財務会計」、「管理会計」、「税務会計」の要求と基準はそれぞれ違う。そして、中国ではその3種類の会計を分けて報告書を作成する企業が多い。
つづく
4月例会は、4月17日に開催されました。「日綜(上海)投資コンサルティング有限公司」の副総経理、呉 明憲さんが幹事を務め、「中国ビジネストラブル失敗事例」というテーマで講演しました。近日中に下記のSBFホームページでその例会報告をいたしますので、ぜひご覧ください。
5月の例会は、5月22日(土)に予定されています。
「上海霓索(NISSO)人力資源服務有限公司」の総経理、杉川 英哲さんが幹事を務め、「中国における、金融危機後の人材市場について」(仮)というテーマで講演していただきます。
非会員のご参加も大歓迎しておりますが、ご興味がある方は、私までご連絡ください。
今月も、下記のホームページの内容追加と更新を行いましたが、ぜひご覧ください。
2003年4月に設立した主に中国(上海)でビジネス活動をする日本人・中国人によって構成される異業種交流会です。